から傘の家

篠原一男 1961/2022

篠原一男(1925–2006)は、丹下健三並び、20世紀後半に活躍したもっとも重要な日本の建築家の一人です。伊東豊雄や妹島和世など次世代の建築家にも大きな影響を与えた存在であるにも関わらず、国際的な知名度は決して高くありません。1961年東京の地に建設された、篠原一男独自のスタイルが確立された最初の建築とも言われる初期の名作住宅「から傘の家」が、数奇な運命を経て、ドイツのヴァイル・アム・ラインに位置する「ヴィトラ キャンパス」に移築・再建されました。

から傘の家はその名前の通り、まるで傘のような特徴的な屋根の下、小さな家族が生活するには十分な空間をもつ正方形平面の木造住宅です。篠原一男は、日本の伝統的な民家や寺院といったヴァナキュラー建築に見られる要素を住宅建築に応用しました。例えば、から傘の家のピラミッドのような屋根は、かつては寺院などの仏教建築でしか見られないものでした。同時に、立面を構成する「繊維セメント板」のように、シンプルかつ比較的安価な素材をあえて使用しています。から傘の家の出現は、日本建築史における1960年代の衝撃的なできごとのひとつでした。
から傘の家は、前居住者の移転と継承への希望、東京都計画道路に本住宅がかかること等の諸事情を背景に、一般社団法人住宅遺産トラストを介し、偶然の幸福なる出会いからスイスの家具メーカーであるヴィトラが継承し、移築・保存することになりました。柱と梁の構造による木造建造物は、2020年の夏に解体され、部材ごとに分割されました。使用されていた檜、杉、米松の木材は、その他の部品、材料とともに梱包され、海を渡りヴァイル・アム・ラインへと移送されました。解体、移送、移築、修復、再建まで、篠原一男のアーカイブを管理する東京工業大学の全面的な指示とサポートのもと、2021年9月に始まった再建工事は2022年6月、ついに完成を迎えました。

Publication date: 13.06.2022
Images: Dejan Jovanovic

ヴィトラキャンパスについて