Just Do It!

ナイキ CDO マーティン・ロッティへのインタビュー

世界中で愛されるスポーツブランドのひとつである『ナイキ (Nike) 』にまつわる、初めての包括的な展覧会 『Nike: Form Follows Motion』「ヴィトラ デザイン ミュージアム」 にて開催中です。この展示では、小さなスタートアップ企業から世界的なブームへと成長した、ナイキの50年に渡る軌跡を探ります。ナイキのチーフデザインオフィサーであるマーティン・ロッティはスイス出身、ナイキの、主にデザインの分野に革命をもたらしてきた人物です。マーティン・ロッティは、ナイキ在職期間中、革新的なフットウェアやアパレルの開発だけでなく、ブランド全体およびストアコンセプトに至るまで、幅広いデザイン面に影響を与えてきました。

VDM:ナイキとの最初の出会いを覚えていますか?

マーティン・ロッティ: 交換留学生だったとき、ホストファミリーが、ポートランドにあるナイキタウンに連れて行ってくれました。私はその店に入り、すぐに出ました。そこにあるすべてのものが欲しくて、完全に欲求不満になってしまったからです。その場に座り込んで、何が買えるか、小遣いを数えました。そして、店に戻って、「エアマックス 180」とジョーダンウィングスのポスターを購入しました。まさか数年後に、自分が次のエアマックスをデザインすることになるとは!その時は、想像もしていませんでした。ナイキはいつでも、’Just do it.’ 「やってみろ」と言って、私たちを水に突き落とします。それは単にスローガンの言葉ではなく、働き方、生き方への姿勢を表現しているのです。

ナイキの歴史の中でも最大のプロジェクトのひとつは、2012年のロンドンオリンピックです。競技を跨ぎ、オリンピックのあらゆる場面で目にした、「ボルト」という明るいイエローを覚えている人は多いでしょう。

ナイキは、限られた条件の中で最大限の効果を発揮するために、ボルトカラーを使ってデザインの統一感を演出しました。ナイキはオリンピックの公式スポンサーではなかったため、使用できるデザインやロゴに制約がありました。しかし、制約がある時こそ、デザイナーは創造性を発揮する必要があります。そこでナイキは、すべての競技に共通する1つの色を選ぶことにしました。それが「ボルト」と名付けられた明るい黄色です。この色は視認性が非常に高く、安全ジャケットと同じ蛍光色です。ユニフォームとフットウェアのデザインやカラーを合わせる手法が一般的ですが、ナイキはあえて1つのカラーのみで、競技に関わらず統一感を演出するというアプローチを取りました。これにより、ナイキはオリンピック全体で強い視覚的インパクトを与えることに成功しました。

ナイキで働いていた時を振り返ってみて、その主な原動力は何だったと思いますか?

27年間勤務する間に、多くのことが変わりましたが、実は変わっていない部分もたくさんありました。基本的な方法論はまったく変わっていません。アスリートたちが自分自身を限界まで追い込むのと同様に、私たちにも挑戦が求められています。最前線を走る彼らのために、私たちも挑戦しなくてはなりません。また、パフォーマンスを左右する大きな要素である「感情」。ナイキは、感情とそのバランスについて、常に意識をして開発に取り組んでいます。バスケットボールが単なるスポーツであったのはマイケル・ジョーダン登場以前の話です。彼の登場以降、バスケットボールは「人生」になり、人々の「生活」の一部になりました。それゆえ、人の感情もまた開発にとって大切な要素です・

一方で、ツールやテクノロジーは大きく進化しました。私が働き始めた頃は、パターン画を工場にファックスで送っていましたが、今では3Dで簡単にデザインできてしまいます。以前は、デザインを描いて、工場に送り、サンプルを製作してもらい、それが戻ってくるまでにもさらに時間がかかっていました。そのため、時間が最大の制約でしたが、今では、人の想像力の限界以外には、制約があるものはありません。

デジタルとフィジカルのバランスについてはどう思いますか?

デジタル分野が進化すればするほど、比例して、フィジカルな要素も取り入れなくてはならないと思います。対極にある2つの要素の融合こそが面白いのです。デジタルに偏ると人間味が薄れ、使う人にとっては冷たく感じるものになる可能性があります。ですから、デジタルとフィジカルの両方を使って、さらにバランスも大切です。具体的には、まず解決しようとしている問題を明らかにすることから始めます。アスリートの声に耳を傾け、彼または彼女のもつ民族的、文化的な背景を考慮、理解し、そこからさらにインスピレーションを得ます。そして、それをデジタルとフィジカル、双方のツールを使って形にしていきます。このようにして、デジタルとフィジカルのバランスが取れたアプローチを実現しています。
「私は、たくさんの人の意見を聞きたい。アスリートが感じていること、見ている世界を知りたいのです。自分ではない誰かとともに生み出すデザイン、その過程こそが美しい。」
マーティン・ロッティ

最後にもう一つ質問です。自動車、家具、ファッション、インテリアデザインと、ナイキの生み出すデザインの違いは何でしょうか?

ナイキのデザインを含め、良いデザインには多くの共通点があると思います。優れたデザイナーは、良いリスナーでありユーザーであり、よき理解者であり、ストーリーテラーである必要があります。コンセプトを作り、それから製品をデザインし、その周りのストーリーを語るまでが仕事です。すべてのデザインアプローチは、むしろ、似ていると言えるでしょう。最終的に目指すのは、機能的でありながらも、人間的な感情に訴えかける製品を作り、それに自らも恋をすることです。
ナイキの展覧会『Nike: Form Follows Motion』 は、2025年5月4日まで ヴィトラ デザイン ミュージアムで開催しています。 展覧会図録 には、展覧会の展示作品とともに、Sam Grawe、Adam Bradley、William Myers、Jared Dalcourt、Ligaya Salazar によるエッセイが収録されています。さらに、デザインと工場、製作過程を含むアーカイブのドローイングや写真、ナイキのDNAを継承する約300点の貴重な資料が掲載されています。

Publication date: 03.10.2024
Images: 1. Installation view 'Nike: Form Follows Motion' © Vitra Design Museum, photo: Bernhard Strauss; 2. Sketch of Air Max, Tinker Hatfield, 1986 © Nike, Inc.; 3. Martin Lotti, Nike Chief Design Officer, 2024 © Nike, Inc.; 4. Documents wait to be refiled at the Department of Nike Archives (DNA), Beaverton, Oregon, 2024 © Nike, Inc., photo: Alastair Philip Wiper**; 5. Tabletop covered with objects from Frank Rudy who invented the Air Technology, Department of Nike Archives (DNA), Beaverton, Oregon, 2024 © Nike, Inc., photo: Alastair Philip Wiper**; 6. Nike shoes in the colour volt in the men’s 5000m race during the London Olympics, 2012 © Getty Images, photo: Ian MacNicol; 7. Flyknit Racer in volt yellow, 2012 © Vitra Design Museum, photo: Unruh Jones; 8. Nike Premier x Comme des Garçons, 2021 © Vitra Design Museum, photo: Unruh Jones; 9. UV oven inside the Advanced Product Creation Center (APCC), Beaverton, Oregon, 2024 © Nike, Inc., photo: Alastair Philip Wiper**; 10. Various lasts, jigs, silicon pads and fixtures, Advanced Product Creation Center (APCC), Beaverton, Oregon, 2024 © Nike, Inc., photo: Alastair Philip Wiper**; 11., 12., 13., Installation views 'Nike: Form Follows Motion' © Vitra Design Museum, photo: Bernhard Strauss

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