デザインアイコンたち

芸術的な、機能と形状の融合

彫刻的なデザインは、建築や家具、工業デザイン、ファッションなど、さまざまな分野で広く目にすることができます。芸術的な表現と実用性を兼ね備え、「美しさ」と「使いやすさ」の両立を実現している点が魅力です。

ひとつのデザインが「象徴的な存在」になるのはどのような時か。それは、その創造性や文化的な文脈、新たなライフスタイルの提案、美意識の変化など、その革新性がデザインの歴史において重要な役割を果たしたときです。従来の機能性や素材、フォルムの既成概念や常識に挑戦することで、デザインの可能性を広げ、次世代のクリエイターたちにも大きな影響を与える存在になったとき、それは単なるモノではなく、進化や新しい価値観を体現する「アイコン」へと姿を変えるのです。

イサム・ノグチが1946年にデザインした 「フリー フォーム ソファ」は、まさにその代表例です。このソファは、家具でありながらも、まるで彫刻のような存在感を持ち、ソファとアートの境界にある製品です。「柔らかい石のような、座り心地の良いフォルムを作りたい」という発想から生まれたこの製品は、川辺の小石を思わせる丸みを帯びたフォルムが特徴で、オットマンとセットにしてなお、調和のとれた美しさを見せてくれます。

イサム・ノグチは、20世紀を代表する彫刻家のひとりです。彼が手がけた「フリー フォーム ソファ」は、有機的なフォルムと浮かぶような低い座面が特徴で、背もたれやひじ掛けのある従来のソファのイメージを大きく覆しました。このデザインは、やがてミッドセンチュリーモダンを象徴する存在になりました。
このソファは1950年代にはごく限られた数しか製造されず、現存している当時からのヴィンテージはほんのわずかです。その中でも特に保存状態の良い一台が、 「ヴィトラ デザイン ミュージアム」に収蔵されています。ヴィトラは20年以上にわたり、イサム・ノグチ財団およびイサム・ノグチ庭園美術館と親密な連携をとりながら、この名作ソファの復刻版を製造し続けています。
素材やデザインを問わず、空間の中に存在する自由な形を持ったものは、すべて彫刻だと私は考えていました。
イサム・ノグチ
チャールズ&レイ・イームズによる「ラ シェーズ」 (1948年)もまた、機能と芸術性の境界にあるデザインといえます。このデザインは、有機的なフォルムを追求すると同時に、実用性の高いシェーズロング(長椅子)でもあり、日常使いできる快適で自然なフォルムを作りたいという、イームズ夫妻の想いを体現しています。

レイ・イームズはもともと画家としてのキャリアを積んでおり、1950年代に国際的なアートシーンを席巻したアメリカの抽象表現主義運動にも関わっていました。イームズ夫妻がデザインした家具の中でも、特に革新的で象徴的なものがこの時期に多く生まれたことと無関係ではないでしょう。「ラ シェーズ」は、彫刻家のガストン・ラシーズが手掛けた彫刻『フローティング フィギュア』からインスピレーションを得て生まれました。レイ・イームズは、建築や家具デザインに取り組む中で、このような言葉を残しています。「私は絵をやめたわけではありません。ただ、パレットが変わっただけです。」

レイ・イームズとヴィトラが「ラ シェーズ」の製造を本格的に始めたのは、デザインが初めて世に発表されてから数十年後のことでしたが、イームズの代表作である 「ファイバーグラス チェア」と同時期に開発されたこの作品は、デザイン史に大きな影響を与えました。「ファイバーグラス チェア」は、座面と背もたれを一体成型し、初めて大量生産に成功した椅子として知られています。

一方、「ラ シェーズ」はその複雑な形状とサイズが原因で、大量生産には向かず、当初は製品化されませんでした。それでもこのデザインは、彫刻的なデザインのアイコンとして高く評価され続けています。

その数年後、ジョージ・ネルソンが主宰するデザイン事務所「ジョージ・ネルソン アソシエイツ」では「ココナッツ チェア」(1955年)が開発されました。ユニークで遊び心のあるフォルムは、1950年代の明るくハッピーな時代の空気を反映し、ミッドセンチュリーモダンを象徴する人気のデザインとして親しまれています。ホワイトのシェルとダークな張り地の組み合わせは、ココナッツの断片を思わせ、3本の脚はココナッツの発芽孔を連想させます。このデザインは、当初製造された数量はほんのわずかでしたが、1980年代後半にジョージ・ネルソンとヴィトラがともに復刻と再発売を企画し、継続的な生産が始まりました。.

彫刻的なアイコンは、従来のライフスタイルからの脱却を象徴することもあります。ヴァーナー・パントンによる「リビング タワー」(1968/1969年)は、1960年代後半から1970年代初頭の時代において、前衛的な住まいのあり方を示す代表的な作品として、今なお高く評価されています。この作品は、2つのウレタンフォームの構造体から成り、4つの水平な面で座ったり寝転んだりできるように設計されています。大量生産向けのデザインではありませんが、人と人との交流を重視した構造が特徴です。「リビング タワー」というデザインを通して、ヴァーナー・パントンは、未来における住空間のあり方を問いかけ、従来のリビングルームのスタイルからの脱却を目指しました。デザイナーであり建築家でもあった彼は、空間全体を包み込むような没入型の環境デザインを好みました。パントンはかつて、「ソファと2脚の椅子、それにコーヒーテーブルを合わせただけの住空間ほどおぞましいものはない。」と語っています。

© Verner Panton Design AG
© Verner Panton Design AG
© Verner Panton Design AG
彫刻的な家具のアイコンの中には、素材の革新的な使い方によって、私たちの価値観に新たな視点をもたらすものもあります。その代表例が、フランク・ゲーリーによる 「ウィグル サイドチェア」(1972年)です。この椅子は、一般的には家具に使われない素材である波形段ボールを使用しています。このアイデアのきっかけは、彼のスタジオにあった小さな建築模型でした。彼はそこから着想を得て、段ボールを手ノコやポケットナイフで切り出しながら、さまざまな形を試していきました。その試行錯誤の中から、「ウィグル サイドチェア」を含む一連の家具シリーズが生まれました。シリーズには、当時はバースツール、サイドテーブル、ダイニングテーブル、ロッキングチェアなども含まれており、素材の可能性に挑む革新的なデザインの代表例です。
アイコンと呼ばれる彫刻的なデザインの数々は、時代は違えどそれぞれが共鳴しあっています。その文化的・概念的な意義は色あせることなく、今もなおデザイナーやアーティスト、思想家たちにインスピレーションを与え続けています。これらのアイコニックな製品は、デザインが単なる機能性や見た目のスタイルにとどまらないことを示唆しています。本物のデザインとは、既成概念に挑み、新たな価値観に気づかせてくれるものです。それは商業的な評価が過ぎ去った後も、時代を超えて長く意味を持ち続けます。

Publication: 03.03.2025
Author: Stine Liv Buur
Images: 1.-4 © Vitra; 5. Staged at the Eames House, Pacific Palisades, California © Eames Foundation, 2023 © Vitra / Photo: Florian Böhm (Studio AKFB) / Eames House © Eames Foundation, 2023; 6.-7.© Eames Office, LLC 2025; 8., 9., 10., 12. © Vitra; 11., 13. © Verner Panton Design AG; 14. © Vitra