新たな座り心地のラウンジチェア「シチズン」

コンスタンチン・グルチッチへの3つの質問

ヴィトラの新作ラウンジチェア「シチズン」をデザインしたドイツ人デザイナーのコンスタンチン・グルチッチ。シチズンは、スチール製のフレームに3点の細いケーブルで座面を吊るしたシンプルな構造です。その新しい構造により、ラウンジチェアでありながら360度全方向へのスウィング動作が可能になります。

この新たな構造はどのようなアイデアから生み出されたのでしょうか。コンスタンチン・グルチッチに話を聞きました。



シチズンのインスピレーション源は「バタフライチェア」としても知られる「B.K.Fチェア/Hardoy チェア」です。1938年にデザインされたこの椅子は、座面と背もたれを兼ねた袋状の生地または革が金属フレームに4カ所で吊るされているだけの極めてシンプルな構造です。しかし、シチズンは開発過程で元のアイデアから大きく変更した箇所があります。背座一体ではなく、背もたれはフレームに固定し、座面は3本のスチールケーブルを用いてフレームから吊り下げることにしました。ちなみに、この細いスチールケーブルは、人の体重を支えるのに十分な強度があります。ケーブルを細くすることで、ばねのような張力が生まれ、座面の自由な動きと安定性が生まれます。とはいえむやみに飛びはねたりはしないでくださいね、本当に座面が浮いているわけではないですから。

シチズンの座り心地はどうですか?

シチズン開発のプロジェクトはまったく新しいものを0から生み出すというものではなく、ラウンジチェアの伝統的な要素を再解釈し発展させるものでした。しかし、その過程で新しい発見もありました。吊り下げるというシンプルな構造は、まったく新しい座り心地を生み出します。自由でありながら柔らかく繊細な動き、それはまるで瞑想をするかのような不思議な心地よさ、例えば自分が気持ち良いと感じるところにクッションをあてがうような、そんな本能的な動作を可能にします。私はその感覚をとても楽しく魅力的であると感じています。外から見ているとその動きが良くわかるのに、座っている人自身がそこまで意識的に動きを感じない点もおもしろいと思います。シチズンの座り心地は、伝統的なラウンジチェアやロッキングチェアとも違い、シンクロナイズドメカニズムによるオフィスチェアともまた違う、まったく新しい感覚を生み出します。

古くから愛され続ける「イームズ ラウンジチェア」やアントニオ・チッテリオのデザインによる「グラン レポ」など、ヴィトラの製品に連なる他のラウンジチェアとシチズンの共通点・相違点はなんでしょうか?

共通点は、すべてラウンジチェアであること、つまり「くつろぐ」ことを前提としている点です。くつろぐとは、リラックスして休息できる姿勢を指し、もちろんそれには自由に姿勢を変えたり動いたりできることも大切です。くつろぐことを前提に作られたラウンジチェア上では、読書や携帯電話で会話することはもちろん、リラックスして仕事をすることもできます。構造的には、仕事用ではなく家庭用にくつろぐための低目のシートハイと自由な動きを可能にするスイベル構造が共通点として挙げられます。3製品の違いは何か。チャールズ & レイ・イームズによるイームズラウンジチェアは、木材と革を組み合わせたクラッシックなデザインでラウンジチェアの代表ともいえる象徴的な存在です。グランレポはシンクロナイズドメカニズムを搭載し、オフィス家具のテクノロジーを一般家庭に応用しました。生地・革張りの落ち着いた重厚感ある佇まいが美しいですね。シチズンは、こういった従来のラウンジチェアの定義を継承、再解釈した上で、腰かけた時の快適さを追求した次世代のラウンジチェアといえます。軽やかでオープンな構造、今までにはない心地よさとくつろぎを生み出す動きを実現しています。

Publication date: 24.7.20
Author: Jasmin Jouhar
Images: Florian Böhm, Markus Jans

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