建築、その瞬間

写真家イワン・バーンへのインタビュー

1.
イワン・バーンは、建築と世界を切り取る、世界でも最も重要な現代写真家の一人です。このオランダ人写真家は、建築物とその周辺で営まれる暮らしや、人と建築の相互作用を写真で物語る手法で知られています。「ヴィトラ デザインミュージアム」のキュレイターを務めるメア・ホフマンによるインタビューです。


メア・ホフマン:あなたが撮影する写真の主役は建築ですか?それとも人物ですか?

イワン・バーン:私が写真においてもっとも大切にしているのはストーリーです。時代を感じさせない建築写真を撮りたいわけではなく、構造、ディテールを捉えようとしているわけでもありません。私は場所の特殊性を探ることに興味があります。建物や建築物は、その言葉が表す通り、いつでもその土地に根ざしています。にも関わらず、そこには唯一無二のストーリーがあり主人公がいる、それはなぜか?私の目に映ったその一瞬の光景、それを描き出したいのです。そこには、人々、環境、風景、街並み、ヘンテコなもの、想像もしないものなど、常に発見や再発見に溢れています。私の作品には、特定の人物やストーリーに焦点を絞ることで、建築自体が映り込まない写真も多くありますが、それは、同時に、日常生活の背景としての建築の存在を表現しています。
2.
3.
4.
5.

撮影場所で、その瞬間を待つのですか?

いいえ、私は直感的に撮影をするタイプですね。事前情報なしに、まっさらな状態でその場所を訪れ、入り込みます。その瞬間に存在するもの、予期せぬ瞬間、その可能性をたたじっと見つめるのです。私にとって「良い建築」の重要な条件は、天候や環境に左右されない受容性です。パズルのピースはいつでもあるべきところにはまります。土砂降りの雨、電気がつかない暗闇、ニューヨークで体験したハリケーン後の快晴、どのような困難な状況で撮影しても、突然、すべてが意味を成す瞬間がやってきます。
「人間がどのように世界を形作るのか、
どのように場所を築き、そこに根づき、居住するのか。
私の興味はそこにあります。」
イワン・バーン
6.
7.

あなたは現代建築の写真家として特に知られています。どのように依頼されるのですか?

プロジェクトはコラボレーションから始まることが多いです。事前に多くの会話をすることはなく、建築家からの明確なリクエストや撮影リストを持って現場に行くこともありません。建築家と私の間には互いに信頼があるからです。それは、人と人としての信頼だけでなく、私が建築から見出す発見への信頼でもあります。建築家は多くの場合、ひとつのプロジェクトに何年も携わり、その建築に対して深い思い入れや見解を持っています。一方、私にとっては、初めて訪れる場所です。私は、建築家が思いもしなかった新鮮な視点で、建築自体とその建築に宿るストーリーを見つけることができます。写真家は客観的な視点に立つべきという主張もあるかもしれませんが、私の作品は、その場所で遭遇したものに対する非常に個人的な視点で撮影されます。建築が建てられた環境や場所、そして建築の中で巻き起こるストーリーを表現することを大切にしています。
8.
9.
10.

あなたは個人のプロジェクトとしても、世界中の先住民族やいまだ類型化されていない建築を撮影されていますね。撮影へのアプローチは依頼された仕事と何か異なりますか?

そこまで大きな違いはありません。建築家がいる場合といない場合、建築の理由が純粋な必要性または完全な豊かさ、あるいはその中間の場合など、状況に関わらず、その土地にどのように建て、根付き、居住するのか。つまり、私は、人間がどのように世界を形作るかに興味があるのです。依頼される仕事では、現代と未来の生活様式を技術的な観点から具現化した最先端の建築へと赴きます。一方で、非常に悲惨な状況にあってもその環境から生み出された場が素晴らしいこともあります。特定の土地におけるコミュニティや暮らし方を探求する私の作品の中には、世代を超えて洗練され進化してきたその土地ならではの建築様式や素材、部材の使用方が映り込んでいることがよくあります。それは、実用的かつ快適な環境を形作るために、人々が工夫し適応してきたひとつの記憶ともいえます。そのような強い意識をもって建築を見つめると、人々がどのように生活を向上させ、少ない資源からより良いものを作ろうとしてきたかを発見する瞬間が訪れます。それは、いつでも謙虚さと希望を感じるひと時です。
11.
12.
展覧会『Iwan Baan: Moments in Architecture』は、2023年10月3日まで 「ヴィトラ デザイン ミュージアム」にて開催されました。

Publication date: 27.10.2023
Images: 1.-5., 8.-9. © Iwan Baan; 6.-7. Portrait Iwan Baan © Vitra Design Museum, photo: Mark Niedermann; 10. Design by Rem Koolhaas and Ole Scheeren (until 2010), David Gianotten, in collaboration with partners Shohei Shigematsu, Ellen van Loon and Victor van der Chijs © OMA © Iwan Baan; 11.-12. Installation views «Iwan Baan. Moments in Architecture» © Vitra Design Museum, photo: Mark Niedermann;

This might also interest you