進化し続ける「イームズ アルミナム」シリーズ

クラシックの歴史と未来

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「イームズ アルミナム」シリーズ の進化は、問題解決と予期せぬ状況への適応を追求し続けた歴史そのものとも言えます。金属と生地や革を組み合わせるというアイデアは、当時は革新的なものでした。時代の経過とともに、デザインと機能性双方の面で進化を遂げ、当初アウトドア用であったものから屋内用が開発され、さらに一般家庭用からオフィスや公共空間にも使える仕様へとシリーズが拡張しました。

このチェアの誕生は、1957年、チャールズ&レイ・イームズの友人でありデザイナーのアレキサンダー・ジラードが、建築家のエーロ・サーリネンおよびガーデンデザイナーのダン・カイリーと協働して設計した伝説的な「ミラー ハウス」のプロジェクトが契機となりました。「ミラー ハウス」は、実業家のJ・アーウィン・ミラーと夫人のゼニア・ミラーのために、インディアナ州コロンバスに建設されました。インテリアデザインと家具を担当していたアレキサンダー・ジラードは、この家に相応しいモダンなアウトドア用家具の選択肢がないことに気づきました。彼はこの悩みをイームズ夫妻に伝えました。イームズ夫妻はミラーハウスに生じた問題と必要性を、さらに大きな課題として広範囲に捉え、一般的に使用可能な耐久性と快適性を兼ね備えたモダンなアウトドア家具の開発に挑みました。

初期の「イームズ アルミナム」グループは、ミシガン州に本拠を置く家具メーカー、ハーマンミラーにより開発され、大成功を収めました。第二次世界大戦後、豊かさを追求する時代において、屋外でのレジャーやリラクゼーションが盛り上がりを見せ、郊外のガーデンで使用できる製品はモダンデザインの新境地を開きました。「インドア・アウトドア チェア」、「レジャー シリーズ」など、初期のプロモーションの文言にも、その潮流と成功が表れています。(現在、ハーマンミラーとヴィトラは、イームズデザインの家具の独占販売代理店です)
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戦後のアメリカデザインの発展を支えたのは、豊富な素材資源と技術の進歩でした。戦中の需要によりアルミニウムの生産量は増加し、さらに、各分野で新たな合成材料の開発が活発になっていました。その時代背景から、デザイナーも一般消費者に向けた製品に、これらの素材を取り入れたいと試案するようになり、「イームズ アルミナム」シリーズの特徴であるアルミニウムと合成繊維は、強度、軽量性、耐久性を十分に考慮して、チャールズとレイが選びました。
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この点で、イームズ夫妻はさらに先を行っていました。すでに彼らは、成形合板の新しい技術や、ワイヤー、プラスチックを用いた椅子の開発に取り組んでいましたが、この時点で、彼らの興味は、特定の環境ではなく、あらゆる環境や条件下で使用可能な家具やシステムの開発に向かっていました。ロサンゼルスは比較的穏やかな気候ではありましたが、本当に屋外でさまざまな天候に耐えられるのか、当初は懸念の声がありました。しかし、カラフルに塗装されたスツールチェアに代わり、人気を博したのは「イームズ アルミナム」グループでした。

チャールズによれば、製品開発は、まるで建築の設計のように断面図から始まったそうです。この図面は、後日、チャールズが 雑誌『インテリア』で「身体を支える張力を生み出す接続システム」と語ったアイデアの初期構想を見事に描いています。チャールズ&レイ・イームズは、さまざまな経験から、部品や部材の接続を複雑化することは、コストがかかるだけでなく、設計上もっとも故障しやすい箇所を作ってしまうということを知っていました。「イームズ アルミナム」グループは、合成繊維の生地を椅子事態に差し挟む部位をつくり、ぐるりと巻き込むことで連続的な接続と張力を生み出し、接着剤やネジ使うことなくフレームと背座の接着を実現しました。バネや大げさなメカニズムを使うことなく、人体を快適にサポートするという用途をデザインで実現した、エレガントな解決策です。
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アルミニウム部分は砂型鋳造によって作られました。この製造法は当時あまりに未知数で、チャールズはまるで芸術品を扱うかのように恐る恐るチャレンジしました。彼は「鋳型の金型と対峙するときは、まるで自分自身をのぞき込むような気持ちになり、驚いてズボンが脱げてしまうくらいでした」とユーモアを込めて主張しました。しかし、イームズ夫妻はアルミニウムを用いることを諦めませんでした。なぜなら、彼らは1938年にセントルイスで手掛けたマイヤー邸設計の際に、すでにこのアルミニウムを窓と手すりに使用した経験があり、イームズ夫妻は、アルミニウムは、使いやすく、機能的で、手頃な価格で、見た目もユニークで、モダン家具にこれからますます必要とされる金属素材であると確信していました。1940年に、チャールズ・イームズとエーロ・サーリネンが、ニューヨーク近代美術館のコンペティションのために「オーガニック チェア」を最初にデザインした時にはアルミニウムの脚が使われていました。戦時中の資源不足により、結局は木材の脚を使用することになりましたが。

「イームズ アルミナム」シリーズにとって、アルミニウムは欠くことのできない素材になりました。コンセプトから量産まで1 年以内、驚異的なスピードですべては進みました。1947年から1959年までイームズオフィスに勤務し「この問題を徹底的に戦い抜いた」ロバート・ステイプルズとドン・アルビンソンの努力の賜物だとチャールズは語りました。ドン・アルビンソンは、この製品シリーズを製造するために開発した専用機器の特許を、当時チャールズとともに取得しました。
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デザインの要となる構造要素は、座面と背もたれをピンと張った状態に保つための、 2 本のアルミニウム製ストレッチャーバーでした。イームズ オフィスのスタッフが「シカの角」と呼んだ、独特の形状をしたストレッチャーの開発には、数多くの木製プロトタイプが作られました。芸術的というよりは科学的なプロセスでしたが、完成品として組み立てられた椅子の主役ともいえる存在感ある部分なので、外見的な美しさも決して無視できません。
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完成までのもうひとつの重要な要素は、座面と背もたれの強度でした。座る人の荷重と張力に耐える生地が必要とされ、幾度となく試験を重ねました。 2 種類の合成繊維を最終候補として、実験は続きました。軽量で耐久性があり、汚れに強い サランも、結果として、耐久性が足りませんでした。もう 1 つは、ゴムをベースにした合成繊維であるビニールレザーの『ナウガハイド』でした。こちらは、掃除が簡単であるだけでなく、はるかに強力でした。それでも、当初は生地のたるみに悩まされましたが、2 層の『ナウガハイド』 内にファイバー性の補強パネルを入れることで解決しました。
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しかし、皮肉にも、より重みがある『ナウガハイド』を採用したことが、このシリーズ全体としては大成功を収めたにもかかわらず、屋外用家具として普及しなかった理由のひとつになりました。発売開始から1年もしない内に、ハーマンミラーはマーケティングを屋外での使用から屋内向けに方向転換し、「インドア・アウトドア」グループという名前から、今ではおなじみの「イームズ アルミナム」グループに変更し、室内装飾品であるヘッドレストがオプションに加わりました。

この椅子はガーデンの定番にはなりませんでしたが、すぐに別の舞台が用意されていました。「イームズ アルミナム」シリーズのアームチェアは、重量が 20 ポンド未満で、当時、他のどのオフィスチェアよりも明らかに軽くまるで羽毛のようでした。イームズ夫妻の軽量な家具へのこだわりは、レジャーや娯楽の重要性同様に、オフィスにおいても安らぎや軽やかさが求められ出した時代ゆえのものでした。さらに、働く場では、楽しさと軽やかさ生は産性の向上につながります。それゆえ、1960年代以降のイームズ夫妻のデザインは、オフィスに特化したデザインを超越し、柔軟に移動可能で普遍性の高い家具へと進化していったのです。
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つまり、「イームズ アルミナム」グループは、機能と効率を重視するモダニズムの精神、素材と技術の革新的な進歩、余暇と生産性の関係など、20世紀半ばのアメリカを形作った大きな潮流の交差点にある存在なのです。

ヴィトラはイームズ オフィスと深く親密な協力を通じて、1959 年意向、ドイツのヴァイル・アム・ラインにある「ヴィトラ キャンパス」で「イームズ アルミナム」グループを製造し続けています。現在 3 代目となるこのパートナーシップは、チャールズ&レイ・イームズの築いた伝統と、本物である信頼を保持し、後世に伝え、さらに進化させ拡張させることに注力しています。

Publication date: 30.04.2024, originally published by the Eames Institute. Launched in 2022, the Eames Institute of Infinite Curiosity is a 501(c)(3) public charity dedicated to equipping everyone with the lessons of the Eameses, so that anyone can use design to solve problems.
Author: Hannah Rachel Pivo
Images: © Vitra except 2., 8., 9. © Eames Office, LLC; 3., 4., 5., 6., 7. © Herman Miller Archives

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