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ヴィトラマット誕生から50年
マティアス・レメレによる歴史的考察
「ヴィトラ マット」は、デザインの歴史の上で決して色褪せることなく、現代においてなお高く評価されているオフィスチェアです。ヴィトラマットは、現代のタスクチェアに至る進化に重要な役割を果たすとともに、ヴィトラがオフィス家具マーケットに参入するきっかけにもなった製品です。
50年前、ヴィトラは革新的なオフィスチェアとして、ヴィトラマットとそのシリーズを発表しました。そのニュースは家具業界を越えて、日刊新聞にも注目の新製品として紹介されるほど世界的に大きく広く報道されました。オフィスチェアがそれ程に注目を集めることはとても珍しいことです。ヴィトラマットの何がそこまで特別だったのでしょうか?
50年前、ヴィトラは革新的なオフィスチェアとして、ヴィトラマットとそのシリーズを発表しました。そのニュースは家具業界を越えて、日刊新聞にも注目の新製品として紹介されるほど世界的に大きく広く報道されました。オフィスチェアがそれ程に注目を集めることはとても珍しいことです。ヴィトラマットの何がそこまで特別だったのでしょうか?
1970年代、それまで当たり前のように推奨されていた姿勢を正して座るということが、産業医学的な見地から、実は健康にとって良くないのではないかといわれるようになりました。代わりに唱えられるようになったのは「動的な座り方」。つまり座っている時でも、頻繁に姿勢を変えることが推奨されるようになりました。定期的に姿勢や体勢を変えることが、筋肉と骨の動きを円滑にし、血液循環を促し、間接的ではあるものの集中力向上が期待できると謳われました。このような背景もあり、ヴィトラマットは理想的な椅子として注目を集め、紹介されたのでした。
この椅子の最も斬新だった点のひとつは、座面、背もたれ、その二つを接続するランバーサポートの三要素で構成されていることです。座面は後方を僅かに高くした傾斜形状で、当時のヴィトラの広告では「骨盤が後ろに傾くのを防ぐ」と表現されていました。さらに一番のセールスポイントは「人の動きに合わせて角度調整しながら、背中を柔らかく支える背もたれ」です。それまでのオフィスチェアと違い、腰かける人に合わせた細かい高さ調整をする必要がありませんでした。
この椅子の最も斬新だった点のひとつは、座面、背もたれ、その二つを接続するランバーサポートの三要素で構成されていることです。座面は後方を僅かに高くした傾斜形状で、当時のヴィトラの広告では「骨盤が後ろに傾くのを防ぐ」と表現されていました。さらに一番のセールスポイントは「人の動きに合わせて角度調整しながら、背中を柔らかく支える背もたれ」です。それまでのオフィスチェアと違い、腰かける人に合わせた細かい高さ調整をする必要がありませんでした。
高い評価を得たもう一つの特性は、座面と背もたれの角度を自動調節する「シンクロナイズドメカニズム」でした。背もたれに体重をかけた時、背もたれのリクライニングの動きに同機=シンクロナイズして座面が動き、さらに人間工学上心地よい角度に傾くという画期的なメカニズムです。さらに椅子のデザインは、独創的で非常にシンプルでありながら、直感的に使える簡単な操作性を追求していました。機械的な外観を避け、座席の高さと角度を調整するための二つのレバーは、あえて座席の真下に配置されていました。
ヴィトラマット発表の少し前に、両親からヴィトラの経営を引き継いだばかりで、この製品のマーケティングに尽力した現名誉会長のロルフ・フェルバウムは、ヴィトラマットの登場は時代の偶然であり必然であったと振り返ります。「デザイナーのウルフギャング・ミュラー・ダイシングによる時代の先を見据えたデザインコンセプトと、ヴィトラで長年製品開発の責任者を務めたエゴン・ボーニングが携わった類まれなる技術の融合により生みだされたのがヴィトラマットです。エゴン・ボーニングによって考案され、ヴィトラマットに最初に搭載されたシンクロナイズドメカニズムは、以降、現代のオフィスチェアが備えるスタンダードな機能として確立されました。」
ロルフ・フェルバウムは、ヴィトラマットの成功について1970年代という時代がさらに追い風となったと分析します。ヨーロッパの主要な国々、特にドイツでは、サービス産業が驚異的な成長を遂げていました。拠点となるオフィスやワークプレイスの増加は、オフィス家具の需要を生みました。さらに、「働く人に優しい、人間味ある労働環境」を打ち出す社会改革の波の中で、ヴィトラマットの人間工学に基づいた機能やデザインは強いセールスポイントでした。同時期にドイツで施行された、オフィス家具の品質と安全の基準を定める法律の導入により、多くの企業がオフィスにおける働く環境の改善を模索していました。
ロルフ・フェルバウムは、ヴィトラマットの成功について1970年代という時代がさらに追い風となったと分析します。ヨーロッパの主要な国々、特にドイツでは、サービス産業が驚異的な成長を遂げていました。拠点となるオフィスやワークプレイスの増加は、オフィス家具の需要を生みました。さらに、「働く人に優しい、人間味ある労働環境」を打ち出す社会改革の波の中で、ヴィトラマットの人間工学に基づいた機能やデザインは強いセールスポイントでした。同時期にドイツで施行された、オフィス家具の品質と安全の基準を定める法律の導入により、多くの企業がオフィスにおける働く環境の改善を模索していました。
当時まだ比較的小規模な家具メーカーであったヴィトラは、ヴィトラマットの登場によって、大規模な契約を巡るコンペティションへ、そして、オフィス市場への参入を果たしました。オフィス市場は、それまで、少数の企業が独占している市場で、優れたデザインとは無縁の市場でもありましたが、これはヴィトラの参入により大きく変わっていくことになります。1979年、ロルフ・フェルバウムは世界的に著名なイタリア人デザイナー、マリオ・ベリーニと協業をはじめ、1984年に二つのオフィスチェア「フィグラ チェア(Figura)」と「ペルソナ チェア(Persona)」を発表しました。ヴィトラマット、そしてこの二つのオフィスチェアの出現は、オフィス市場における「デザイン」のニュースタンダードを打ち立てたのでした。
Publication Date: 15.12.2016
Author: Mathias Remmele
Images: Vitra Archiv