私たちは迅速に進化しなくてはならない

ステファン・ヒュルレマンの「ダンシング オフィス」を訪ねて

「ダンシング ウォール」を今こそ実際に試してみよう。ダンシングウォールは、スイスの建築家でありデザイナーのステファン・ヒュルレマンがデザインしたモバイル式パーテーションです。2019年、ビジネス環境の急速な変化に対応するアジリティ(機敏性)が求められていたビフォーコロナの時代、ユーザー自身が簡単にレイアウト変更できるダンシングウォールは、アジャイルな働く環境への解決策として開発されました。2020年、COVID-19の感染拡大後、ステファン・ヒュルレマンはダンシングウォールを使い、「新しい日常」にふさわしい形に自身のデザインスタジオを再構成しました。人との間に適切な距離をおくソーシャルディスタンシングさえ簡単に解決し、迅速に働く環境を整えるダンシングウォールの使い方をステファン・ヒュルレマンに聞きました。

現在、あなたとチームはどこでどのように働いているのですか?

5月頃から少しずつ段階を追ってデザイン事務所に戻り始めました。それまでは、スタッフみなホームオフィスでした。

ホームオフィスとは、あなたにとってどのようなものでしたか?

自宅からのリモートワークにはたくさんの利点があります。家族と一日をともにし、昼食を一緒に食べることができる、それはとても素晴らしいことです。しかし、仕事に関しては良いことばかりではありません。一日のほとんどの時間をオンライン会議に費やさなくてはならず、ほぼ机の前から動くこともできず、つねに集中していなくてはなりませんでした。スタッフも同じようなストレスを抱えていたと言います。そして、オフィスで偶発的に起きる会話や出来事、他愛もないやりとりをとても恋しいと感じるようになりました。オフィスで目にすること、耳にすること、そのすべてがアイデア源だったことに気が付きました。特にクリエイティビティが必要とされる仕事には、自らの想像を越えたアイデアやインスピレーションを得る体験が重要なのです。ホームオフィスにはそれが決定的に欠けています。

2019年、ダンシングウォールを使って、アジャイルな働き方に適応するオフィスコンセプトの「ダンシング オフィス」を実践されていましたね。コロナ禍の今、オフィスのインテリアはどのように変わりましたか?

徐々にオフィスに出勤するようになると、いつの間にか慣れていた行動パターンに戻る危険性が大いにあります。ついつい適切な距離をとることを忘れてしまいがちです。個人の判断に任せるのではなく、オフィスのレイアウトを変更し、自然とできるように工夫する必要性を感じました。座席やデスクにテープを貼って強制的に使えなくするという方法では、必要な物理的な距離を自然に維持し、その場で働くスタッフに心から安心と安全を感じさせることはできません。ダンシングウォールを使えば、簡単に空間を区切り、意識せずともスタッフ同士の間隔を空けることができ、素早く理想的なインフラを構成することができます。数人のスタッフでオフィス全体のレイアウトを一新する際の所要時間はたった1時間半でした。

COVID-19が引き起こした危機的状況は、アジャイルな働く環境全体にどのような影響を及ぼすでしょうか?

コミュニケーション、コラボレーションのための場、それがアジャイルなワークプレイスです。従業員やチームは、自由に移動し、目的と用途に合った環境を自らセッティングすることができました。しかし、人と人が距離を保たなくてはならない状況に変わった現在、動き回ることや、それぞれが自由に働く環境をセッティングすることは多少の感染リスクを伴います。そのため建築的な構造やレイアウト、家具の配置によって、従業員を自然と相応しい作業環境に導き、適切な距離を保つ工夫が重要です。

多くの人にとって、家から仕事をすることは新しいスタンダードになりつつあります。ホームオフィスの重要性は、ビフォーコロナの時代と比べてどう変わるでしょうか?

ホームオフィス自体は新しいものではありません。しかしCOVID-19の世界的な流行は、ホームオフィスの浸透を決定的に加速させました。6年かかったかもしれないことが、たった6週間で!危機的状況の中で、私たちは迅速にそれを学び、対応せざるを得えませんでした。そして、その経験はこれからも私たちの中に残り、影響を与え続けます。アフターコロナの時代においても、ホームオフィスはごく当たり前の働き方として認識されるでしょう。企業もまた、オフィスの外で働くホームオフィスのようなリモートワークの働き方を取り入れ、今まで本社機能を担っていたオフィスの規模と数を縮小することができます。またホームオフィスやオンライン会議の普及は、出張などの物理的移動と二酸化炭素排出量の削減を意味し、地球環境に対しては良い影響が見込まれるでしょう

感染リスクを避けるため距離をとらなくてはいけないという状況は、かつての一人用に区切られた半個室型のオフィスへの逆行に繋がるでしょうか?もはや囲われた空間でしか、心からの安全と安心を感じるのは難しいのでは?

私はそうは思いません。一人で集中する必要がある仕事については、長期的には、ホームオフィス、またはオフィスでも自宅でもないホテルなどの第三の場所へと変わっていくでしょう。それによって、従来のオープンな空間設計のオフィスが抱えていた問題もまた解決されると考えています。働き方とともにオフィスの役割も日々変化しています。今日のオフィスでは、8時間同じ場所で座ったまま仕事に集中するということよりも、チームワーク、コラボレーション、ワークショップ等を通じて、一人で生み出すことができない新たなアイデアを生み、イノベーションを起こすことが重視され、さらにその傾向は高まるでしょう。結論としてオフィスがなくなることはありません。これからのオフィスは、企業アイデンティティを共有し、従業員の一員であるという意識を育む場所として必要とされるでしょう。同時に、従業員は、今まで以上に、自分のアイデアをどう役立てるのか、何のために働いているのかという意識を強く持ちたいという想いを抱えています。そのため、企業は、企業価値とアイデンティティを明確に定義する必要性を求められるでしょう。

Publication date: 27.10.2020
Images: © Vitra

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