解釈の余地

サビーネ・マルセリスへのインタビュー

視点を変える:ロッテルダムを拠点とするデザイナー、サビーネ・マルセリスは、ヴィトラキャンパス内の シャウデポに所蔵されている膨大なコレクションの中から400点をカラー別に展示し、再構成しました。私たちの想像を超えながらも、完璧な調和を表現したダイナミックな展示は、 ” Colour Rush! ”と名付けられました。

あなたの活動において、初期のころから色彩はもっとも重要な要素のひとつですよね。その色彩のアプローチを ヴィトラデザインミュージアムのコレクションの編集にも反映しようと思っていたのでしょうか?それとも、カラー編集することに対して、疑問をお持ちでしたか?時々、背表紙の色で本を分類する人もいらっしゃいますよね。

サビーネ・マルセリス:おっしゃることは良くわかります。実は、私も本を色で分別にするのは苦手ですし、それが正しいとは思いません。さすがに本棚から一冊の本を選ぶときには色ではなく何らかの基準があるべきです。しかし、この展示を色で編集していくことには何の疑問も持ちませんでした。これは色に関する展示ではなくデザインの展示だからです。同時に、「色」という、いつもとは異なる大きなひとつの視点を提案しています。ヴィトラデザインミュージアムに所蔵されているコレクションをより新鮮に見せたい、そんな思いを込めました。これまでの展示は、時代と進化の過程をたどるように年代順で並べられていましたが、「歴史」という視点を取り去ってみたらどうでしょう?今までにない自由な視点でこれらのコレクションを眺めることができます。私は自らの仕事や作品に取り組む中で、物、素材、空間等に対して、新たな視点を発見することはしばしばあります。基本的にはひとつの大きな方向性があれば十分ですし、見る人が自由に解釈できる余地を残している方が好きです。私の作品を見て、私の考えとはまったく違う何かを発見する瞬間が好きです。

自由な解釈を可能にしているのは“Color Rush!”のどういうところでしょうか?

子供やデザインに詳しくない方でも、気軽に見ていただける展示です。すべての人が独自に解釈することができます。

展示するひとつひとつの作品をどのような基準で選びましたか?

ヴィトラデザインミュージアムの所蔵品は、約7000に及びます。その中から展示品をえらぶため、キュレーターのスザンヌ・グレイナーとニーナ・スタインミュラーとともに、展示品を選ぶ特定の条件を決めました。たとえば、模様やグラデーションのない、単色のみの作品だけを展示することにしました。スザンヌとニーナの二人がデータ上から事前に候補を絞り込んでみたところ、ブラックはとても多いことが分かりました。また、赤、オレンジ、茶色などの暖色のものも豊富でしたが、緑はとても難しく、紫、ピンク、黄色の棚もまた埋めるのが大変でした。さらに、私たちにとって重要なポイントは、世界中のデザイナーによる作品をインスタレーションで見せることによって、デザインを包括的にとらえて表現することでした。

実際にはどのように作品を並べていきましたか?

展示全体は、まるでカラーホイールを半分に切って展開したような構造です。シャウデポに足を踏み入れると、片面は紫、その反面は捕食である黄色の棚。黄色の次にはオレンジ、赤、茶色が続き、紫の次に青、緑、白、最後にグレーと黒が続きます。白とグレーの間には、透明な素材を使用した作品を展示する台座を2つ配置しました。それぞれのカラーの中でも、トーンや色調ごとにグループ分けしましたし、生地張りの作品の隣にはプラスチックの製品を配置するなど、素材についても異なる素材の組み合わせを試みました。特に茶色の場合は、予期せぬ組み合わせがいくつかうまれました。例えば、古いトーネットの椅子の隣に偶然、1960 年代の透明な「パントン チェア」 が並びました。いずれにせよ、私たち直感に従い作業を進めました。配置した棚を見渡して、「これで完璧だ」と納得する瞬間が必ず訪れます。

新しい配置は、新しい視点を生む。そういうことですね。

時代や素材が異なる作品を並べてみると、さらに多くのことが見えてきます。私が特に感銘を受けたのは、それぞれの作品の製造過程です。たとえば、グレーの棚に陳列されたヨーリス・ラーマンのAluminum Gradient Chair は3Dプリントされた金属から作られています。今回の展示は想像以上に明確で整然とした印象にまとまりました。かつてPCで、それぞれの作品の画像を配置してシミュレーションしたことがあるますが、どうにも雑然としてまとまりが良くありませんでした。しかし、実際に作品を並べながら、気になる箇所や違和感を覚える箇所を取り除いていった結果、今、私の視界はとてもクリアです。少し軽く聞こえるかもしれませんが、それが私のやり方なのです。

展示の一部には小さなインスタレーションも含まれていますね。

デザイナーが素材に対して色をどのように扱ってきたかをインスタレーションで説明しています。40 種類のカラーサンプル樹脂を作り、中心に配置した無色のサンプルから、白、黒、または別の色がグラデーションのように展開しました。ひとつの素材でカラースキームを表現しています!

さまざまなデザイナーによる色の研究も展示内で見ることができます。

ヴィトラデザインミュージアムのコレクションといえば、椅子を思い浮かべる方が多いと思いますが、椅子だけではありません!例えば、テキスタイルの見本、壁紙、またはヴァーナー・パントンによる素材の実験サンプル、ル・コルビュジエやヘラ・ヨンゲリウスによるカラースタディ。 “Colour Rush!”の展示では、これらすべての作品と素材を皆さんに紹介することができました。

Publication date: 25.7.2022
Images: 1.-2. & 10.: Vitra Design Museum, Foto: Mark Niedermann; 3.-4.: Vitra Design Museum, Foto: Mark Niedermann, © VG Bild-Kunst, Bonn 2022; 5.-9.: Laurence Kubski, commissioned for Disegno #33
Author: Jasmin Jouhar


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